雑草DB

芝地の雑草の見分け方と防除 (10)


-カヤツリグサの仲間-

<はじめに>
今回はカヤツリグサ科(Cyperaceae)のカヤツリグサ属(Cyperus)について述べる。カヤツリグサ(蚊帳吊草)の名は、茎を両端から裂くと四角形になり蚊帳※1)をつるのに似ることから付いた名で、ハマスゲ(浜菅)は海岸の砂浜に多いことから名づけられ、その塊茎は香りがあるので香附子(コウブシ)と呼ばれ薬用にされる。ヒメクグ(姫莎草)は全体的に小さいことからこの名が付いた。クグ(莎草)はカヤツリグサの古名である。

<共通点>
葉は数枚根生し、線形で細長く伸び、先はとがる。基部は筒状に合着して葉鞘となる。葉舌はない。茎は中空でない三角柱で、分岐せず、途中に節がない。茎頂に3枚ほどの苞葉を付ける。その真中に、花被(がく、花弁)はなく、雄しべ3個と雌しべ1個が1個の鱗片に包まれ、それが2列に並んで小穂となる。

<見分け方>
茎葉を見ただけでは区別が難しく、花茎が出て初めて区別できる。小穂の付き方、鱗片の色、形などで見分けられる。それまでは、茎葉をもんだときのにおいや地下部の状態をみる。見分け方のポイントをまとめると写真下の説明のようになる。

<その他の類似雑草>
アイダクグCyperus brevifolius var. brevifolius:アイダクグ(間莎草)は、ヒメクグに非常に良く似るが、ヒメクグより少し大きい。また、鱗片の竜骨に小さい刺があり、先端がやや反曲することで見分けられる。

コゴメカヤツリCyperus iria L.:コゴメカヤツリ(小米蚊帳吊)とは、カヤツリグサに似るが、カヤツリグサより小さく、稔ると稲穂のように垂れ下がり、鱗片の先端がとがらないので、実を米粒に見立てた名である。この鱗片が黄色で、先端がとがらず、穂が垂れることからカヤツリグサと見分けがつく。

<発生生態>
カヤツリグサは乾燥した場所に生育する傾向がある。8月下旬頃から種子がこぼれ落ちるので、それまでに刈り取る。
ヒメクグは日当たりの良いやや湿った所に生える。地下茎が地表面近くを横にはって広がり、節ごとに1本の花茎を出して種子をつけ、またこれによっても繁殖する。
ハマスゲは乾燥を好み、地下深くに細くて硬い地下茎を出し、その先の随所に硬い塊茎を作る。地上部が枯れても、刈り取られても、また塊茎から新しく芽が出てくる。また種子でも殖える。

筆者は過去にハマスゲの増殖の調査した。砂を充填した育苗箱に6月1日に1個の塊茎から出た1株を植えつけ、無肥料散水のみで管理し、10月15日に掘り上調査を行ったところ、3反復平均18個の新塊茎ができていた(図1)。
このように、一旦芝地に侵入し放置すると、次々に殖え、難防除雑草となる。

※1) 蚊よけに、細かな網状の布の四隅を紐でつったもの。その中に寝床を敷いた。

図1.ハマスゲの増殖調査


6月1日1株植付け

10月15日の地上部10株


6月1日塊茎1個

10月15日地下塊茎20個

<防除法>
近年ではカヤツリグサ科に対して、SU剤などの効果の高い除草剤が普及したため、昔に比べて防除が困難な雑草ではなくなった。しかし、ハマスゲは茎葉部が枯れても塊茎までは枯死しにくく、再発生してくることが多いため、カヤツリグサ科の中でも防除が困難な雑草である。発生密度の高い場合は塊茎の入っているところを掘り取り、芝の張り替えを行う。また除草剤の規定薬量より少ない量で処理していると、地上部の生育が抑えられた分、株が小型化するものの、逆に数が増殖するというケースもあるので、除草剤の使用には注意が必要である。


ハマスゲ Cyperus rotundus L.


生活史: 多年草  
草丈:15~40cm
葉:質は硬く、光沢があり、深緑色
花序:茎頂の苞葉の間から花枝が1~5本出て、数個の小穂を付ける。

小穂:線形で、濃い赤褐色で、光沢があり、長さ1.5~3cm、幅2~2.5mmくらいで、20個ほどの鱗片が2列に並ぶ。
鱗片:舟形で中脈は緑色で両側は濃い赤褐色。
柱頭:3裂し、鱗片の間から突き出して目立つ。

地下部:株の基部が肥大して球形状になる。

地下深くに細くて長い地下茎を伸ばし、その先に硬い塊茎を作る。

新しくできた暗褐色の塊茎からまた芽を出し、葉で作った養分を地下部に転流し、次々に塊茎を作っていく。


ヒメクグ Cyperus brevifolius Hassk. var.leiolepis T.Koyama


生活史:多年草  
草丈:10~20cm。
葉:線形で、質は柔らかく、やや黄緑色手でもむと甘いにおいがするので区別ができる。
地下部:紫色を帯びた根茎が地表面近くを横にはい、各節ごとに1本の茎を立て、殖えていく。

花序:茎頂の苞葉の真中に緑色で球形または卵球形で、無梗の直径1cm位の頭状花序がつく。
小穂:茎頂に密に多数つき扁平で、ただ1花。
鱗片:鱗片の竜骨※2)は平滑で、先端は反曲しない。
柱頭:2裂する。

※2) 2つ折になった鱗片の背中側の稜


カヤツリグサ Cyperus microiria Steud.


生活史:一年草  
草丈:20~50cm
葉:質は柔らかい。
花序:茎頂の苞葉の間から花枝を5~9本だし、さらにいくつかに分かれ、その先に多数の小穂をつける。

地下部:やや紫色のひげ根のみである。

小穂:黄褐色の線形で、20個内外の鱗片を2列につけ、長さは1~1.5cmくらい。
鱗片:黄褐色、先端は短くとがっている。
柱頭:3裂する。



<参考文献>
長田武正著:原色日本帰化植物図鑑(1976,保育社)
清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七編著:日本帰化雑草植物写真図鑑(2001,全国農業教育協会)
廣田伸七編著:ミニ雑草図鑑(1997,株式会社理研グリーン)
牧野富太郎著:牧野新日本植物図鑑(1961,北隆館)
浅野貞夫・廣田伸七編著:図と写真で見る似た草80種の見分け方(2002,全国農村教育協会)
大井次三郎著:標準原色図鑑全集9植物Ⅰ,Ⅱ(1967,保育社)など
大井次三郎著:日本植物誌 顕花篇(1978,至文堂)
林弥栄総監修/畔上能力・菱山忠三郎・西田尚道監修:野草見分け方のポイント図鑑(2003,講談社)
長田武正著:野草図鑑③すすきの巻き,④たんぽぽの巻(1984,保育社)
浅野貞夫著:浅野貞夫 日本植物生態図鑑(2005,全国農村教育協会)
清水建美編:日本の帰化植物(2003,平凡社)

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