チドメグサの仲間
芝地の雑草の見分け方と防除 (9)
-チドメグサの仲間-
<はじめに>
今回はセリ科(Umbelliferae)のチドメグサ属(Hydrocotyle)について述べる。チドメグサ(血止草)の名は、葉を傷口につけると血が止まると言われていることからついた名で、オオチドメ(大血止)はチドメグサより大形であることから、ノチドメ(野血止)は野原に多いことからこの名がついた。
ツボクサ(壺草)は庭草の意味で、庭や道ばたに生えるためである。
<共通点>
多年草。茎が地面をはい、各節から根と葉を出す。葉は長い柄があり、ほぼ円形で基部は心臓形。花弁は5個、5本のおしべ、2個の花柱で子房下位。果実は2個の分果に分かれる。
<見分け方>
葉の大きさ、裂け方、基部の離れ具合、毛の生え方、花柄の長さなどで見分けられる。
主なものをまとめると下表のようになる
日本語名 | チドメグサ |
---|---|
英語名 | Hydrocotyle sibthorpioides Lam. |
茎 | 糸のように細く、先まで地をはう。 |
葉 | ・直径1~1.5cmと小形。
・切れ込みが浅い。
・基部の左右のへりは互いに接している。
・上面無毛。
・質は薄くて光沢がある。 |
花 | ・花柄は5~12mm。
・緑白色の小さな花が10個前後かたまってつく。 |
果実 | 長さ約1mmほどで、卵形で扁平。 |
その他 |
日本語名 | ノチドメ |
---|---|
英語名 | Hydrocotyle maritima Honda |
茎 | 細く、地をはうが、先がやや立つ。 |
葉 | ・直径2~3cm。
・切れ込みが深い。
・基部の左右のへりは少し離れている。
・上下面に長い毛がまばらにある。
・質はやや薄くて光沢がない。 |
花 | ・花柄は葉柄より短い。
・緑白い小さな花が10個前後かたまって球状につく。 |
果実 | ・長さ1.5mmで、円形で扁平。 |
その他 | ・暖地に生える。 |
日本語名 | オオチドメ |
---|---|
英語名 | Hydorocotyle ramiflora Maxim. |
茎 | 地をはうが、先がやや立つ。 |
葉 | ・直径は1.5~3cmでチドメグサより大形。
・切れ込みは浅くまるみ。
・基部の左右のへりは互いに接し、重なり合う。
・上面無毛
・質はやや厚くて光沢がある。 |
花 | ・花柄が葉柄より長い。
・先に緑白色の小さな花が10個前後かたまって、球状につく。 |
果実 | 長さ1.5mmで、腎臓形で扁平。 |
その他 | 日本各地に生える。 |
日本語名 | ツボクサ |
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英語名 | Centella asiatica Urban ( =Hydrocotyle asiatica L .) |
茎 | 長く地面をはい、緑色または紅紫色。 |
葉 | ・直径3cmぐらいで大形。
・切れ込みはないが鋭い鋸歯がある。
・基部は心臓形にくぼむ。
・質はやや厚く、各節に3~4枚つく。 |
花 | ・花柄がごく短い
・紅紫色の小花を2~5個つけ、 花柄が短いので全体が小さな塊となる。 |
果実 | ・直径約3mmで、円形でやや扁平、網紋がある。 |
その他 | 本州中部以南の各地に生える。 |
<その他の類似雑草>
ヒメチドメ Hydrocotyle yabei Makino : 茎は先まで立ち上がらず、チドメグサに似るが葉はさらに小さく、切れ込みが深い。基部の切れ目が広く開き、冬は枯れる。果実は厚さ1.3mmで2~5個 と少ない。
<発生生態>
やや湿ったところに生えやすい。茎が地面を長くはい、各節からひげ根を出し地面にはりつたようにひろがるので、刈り込みにかかりにくい。手抜きでは細い茎が切れて、葉も根も残り、除去しにくい。また、夏から秋にかけて花柄を出し、10数個の果実をつけ、この実が落ちて、また発芽してくる。それゆえ化学的防除が必要となる。
<防除方法>
チドメグサは昔からあるゴルフ場の難防除雑草であり、ゴルフのプレーに大きく影響しないいが、芝生内で定着すると芝生の密度は低下する。防除には除草剤を使用し、芝生への安全性も考慮しながら除草剤の選択、散布時期、散布回数を考えなければならない。チドメグサは茎を伸ばして広がる。また、種子の拡散によっても広がるので、発生すれば速やかに防除しなければならない。
生態的防除
チドメグサは湿地を好む性質があるため、散水されるグリーン内やグリーン周辺、排水溝周りやコース内で水のたまりやすい窪地などに発生する。ヒメクグ、スズメノカタビラなども湿地を好むので、水がたまりやすい場所は改善する。
除草剤による防除
チドメグサの防除には茎葉処理剤を用いる。散布期間としては地域によって異なるが、梅雨前が適期となる。7月を過ぎると開花、結実するので、それまでに散布することが望ましい。散布水量は茎葉処理の場合あまり多くを必要とせず、1㎡当たり100mlで良い。しかし、スポット処理や部分処理を行う時には散布水量が多くなりがちで、単位面積あたりの薬量も増え、芝生に対して薬害が出やすくなるので十分に注意する。
除草剤散布にはある程度の慣れと散布器具の選択も必要だが、芝生に薬害が出たら問題になるような場所(特にグリーンやグリーン周辺)での使用は、一度に完全防除を求めるのではなく、70~80%の効果があれば良いぐらいで使用することが、芝生への安全性の面からは重要となる。
除草剤の種類には大きく分けてホルモン剤とSU(ALS阻害剤)がある。ホルモン剤は早い効果の発現が期待でき、ある程度生育の進んだチドメグサにも効果的である。しかし、処理する時期によっては芝生に対する影響が出ることもあり、春先のコウライシバ、ノシバの萌芽期時期、夏場の高温時期には黄化などの薬害がでる可能性があり、芝生が枯死することはないものの一時的に影響がある。したがって、萌芽時期や高温時は、なるべく避けて処理することが望ましい。また、寒地型芝草には強い薬害がでるので使用しない。
SU剤はホルモン剤に比べて効果が出るまでの時間がかかる。しかし、芝生への安全性が高い剤が多く、土壌処理効果も含まれた除草剤もあるので、種子から発生するチドメグサにも有効となる。ホルモン剤ほどに芝生に薬害をだすことは少なく、あまり目立つことなく枯らすには有効だが除草効果が遅いからといってすぐに再処理しないようにし、2~3週間は様子を見るようにする。
チドメグサに有効な茎葉処理剤は以下のものが挙げられる。
ホルモン剤としてはザイトロンアミン液剤、トリメックF、MCPP液剤、ブラスコンM液剤、SU剤としてはシバゲン水和剤、トーンナップ液剤、シバタイト、シバタイト40などがある。
グリーンの芝生には主にベントグラス(寒地型芝草)、コウライシバ(日本芝)があり、グリーンでのコウライシバはフェアウエイ、ティーグラウンドの芝と比べて低刈りや踏圧などのストレスがある。このためホルモン剤の除草剤では芝生に対して影響が出やすく、ベントグラスに対しても安全性の高い除草剤を使用する。グリーンでの使用で安全性の高い除草剤としては、グラッチェ顆粒水和剤、インプール水和剤、インプールDFなどが挙げられる。
チドメグサに対して1回の処理で完全な防除は難しく、除草剤処理によって一時的に枯らせても再生する。除草剤によっては再生までの期間に相違があるが、再生が見られたら再び除草剤を処理する必要がある。再処理のタイミングが遅くなるとチドメグサも回復してしまうので、散布時期を失しないように反復処理をすることが重要である。
グリーンなどに発生したチドメグサで密度が高く面積が広い場合は、枯死させてもその部分はかなりターフ密度が低く、芝生の回復に時間がかかるようであれば、最初から張り替えを考えることも必要となる。除草剤処理に際しては芝生の回復が速やかにできるかどうか、回復するだけのターフ密度があるかどうか考慮する。
<参考文献>
長田武正著:原色日本帰化植物図鑑(1976,保育社) 清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七編著:日本帰化雑草植物写真図鑑(2001,全国農村教育協会) 廣田伸七編著:ミニ雑草図鑑(1997,株式会社理研グリーン) 牧野富太郎著:牧野新日本植物図鑑(1961,北隆館) 浅野貞夫・廣田伸七編著:図と写真で見る似た草80種の見分け方(2002,全国農村教育協会) 大井次三郎著:標準原色図鑑全集9植物Ⅱ(1967,保育社) 林弥栄総監修/畔上能力・菱山忠三郎・西田尚道監修:野草見分け方のポイント図鑑(2003,講談社)
チドメグサ
茎は糸のように細く、先まで地をはう。
葉面は無毛で光沢がある。葉は径1~1.5cmと小形。葉は円形で浅い切れ込みがある。基部の切れ込みが深くて狭く、左右のへりは互いに接している。花は葉のもとごとに1本の花柄が出て先に緑白色の小さな花が10個前後かたまってつく。果実は長さ約1mm卵形で扁平。
ノチドメ
茎は細く、地をはうが、先がやや立つ。
暖地に生える。
葉は直径2~3cmの円形だが、5~7の深い切れ込みがある。基部のへりは少し離れている。上下面に長い毛がまばらにある。質はやや薄くて光沢がない。
花柄は葉柄より短い。白い小さな5弁花が10個前後かたまって球状につく。果実は長さ1.5mmで平円形。
オオチドメ
茎は地をはうが、先がやや立つ。葉は直径は1.5~3cmの円形。7つほどの切れ込みは浅くまるみがある。基部の左右のへりは互いに接し、重なり合う。質はやや厚くて光沢がある。
葉のもとごとに1本の花柄が長く伸び、葉より高くなる。先に緑白色の小さな花が10個前後かたまって、球状につく。果実は長さ1.5mmで、腎臓形で扁平。
ツボクサ
葉は直径3cmぐらいのほぼ円形で大形。
へりは分裂しないが鋭い鋸歯があり、基部は心臓形にくぼむ。質はやや厚く、各節に3~4枚つく。
夏に葉腋から短い花柄を出し、紅紫色の小花を2~5個つける。
茎は長く地面をはい、緑色または紅紫色。
果実は直径約3mmで、円形でやや扁平、網紋がある。花柄が短いので全体が小さな塊となる。
<参考文献>
長田武正著:原色日本帰化植物図鑑(1976,保育社)
清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七編著:日本帰化雑草植物写真図鑑(2001,全国農業教育協会)
廣田伸七編著:ミニ雑草図鑑(1997,株式会社理研グリーン)
牧野富太郎著:牧野新日本植物図鑑(1961,北隆館)
浅野貞夫・廣田伸七編著:図と写真で見る似た草80種の見分け方(2002,全国農村教育協会)
大井次三郎著:標準原色図鑑全集9植物Ⅰ,Ⅱ(1967,保育社)など
大井次三郎著:日本植物誌 顕花篇(1978,至文堂)
林弥栄総監修/畔上能力・菱山忠三郎・西田尚道監修:野草見分け方のポイント図鑑(2003,講談社)
長田武正著:野草図鑑③すすきの巻き,④たんぽぽの巻(1984,保育社)
浅野貞夫著:浅野貞夫 日本植物生態図鑑(2005,全国農村教育協会)
清水建美編:日本の帰化植物(2003,平凡社)