メヒシバの仲間
芝地の雑草の見分け方と防除 (4)
-メヒシバの仲間-
<はじめに>
今回は春に芽を出すメヒシバ類について見てみる。
メヒシバは「雌日芝」の意味で、オヒシバ「雄日芝」に対比する呼び名で、オヒシバに比べ弱々しい感じがすることからついたもので、「日芝」は日のよく当るところに生えるという意味である。メヒシバは乾燥で他の雑草が枯れても盛んに繁茂している夏の代表的な強害草である。アキメヒシバはやや遅れて、主に秋に穂を出すことからこの名が付いた。コメヒシバはメヒシバに比べ全体が小形であることから名づけられたものである。
<共通点>
イネ科一年草。属名のDigitariaは“指”の意で、稈は単一で、花序が頂に掌状に数個つき、花軸が細いのでこの名がついているようだ。
<見分け方>
葉鞘の毛の有無、花穂のつき方、軸のようす、小穂の形状、大きさなどで見分けられる。
メヒシバ
草丈40~80cmで、3種の中で最も大きくなる。
茎の下部が横に長くねて先が立。節ごとに根を出す。
葉身の長さ8~20cm、幅5~15mm。
一番幅の広いところは基部近くにあり、色は白っぽい緑色で、質は柔らかい。
葉鞘に長い毛がある。(8月)
葉が丸みを帯びる。(5月)
小穂は披針形で、淡緑色ときに褐色。
長さ3~3.5mmほどで、第1苞穎はほぼ三角形(○印の中)。
護穎の両縁に特に長い毛(↑)がある。
アキメヒシバ
草丈20~50cmで、大きさは3種の中で中くらい。葉身の長さ6~12cm、幅5~10mmで、披針形で無毛。先が尖り質は固い。葉鞘は無毛。(8月)
右:アキメヒシバ 左:エノコログサ
葉がメヒシバに比べて細長い。(5月)
幼苗期はエノコログサと間違いやすい。
小穂は卵状楕円形でやや先が尖る。長さ1.5~2mmで、一番小さく、全体に短毛があり、通常は赤紫色を帯びる。
コメヒシバ
草丈10~30cm、葉身の長さ3~5cm、幅4~8mmで、一番小形。一番幅の広いところはほぼ中央部付近にあって基部に向かい細まり、質は薄く柔らかい。鞘口付近に毛。(9月)
メヒシバの小形。(5月)
護穎は最も大きく披針形で5脈あり、緑色。第1苞穎は微小または消失。長さ2.5~3mmで、両縁に毛がある。
三種の比較
左:コメヒシバ 中:アキメヒシバ 右:メヒシバ (10月)
コメヒシバは花穂が2~3個で1カ所から出る。穂軸のヘリは平滑でざらつかない。
アキメヒシバは花穂が3~7個で1または2段につく。穂軸のヘリは少しざらつく。
メヒシバは花穂が5~12個で中軸が伸び2または3段になってつく。穂軸のヘリはざらつく。
第1苞穎側から見た小穂
写真内 上:メヒシバ 中:アキメヒシバ 下:コメヒシバ
第2苞穎側から見た小穂
写真内 上:メヒシバ 中:アキメヒシバ 下:コメヒシバ
3種の比較をすると下の表のようになる。下線【 _ 】は見分け方の重要点を示す。
日本語名 | メヒシバ |
---|---|
英語名 | Digitaria ciliarisKoeler |
幼苗 | 葉が丸みを帯びる。 |
草丈 | 3種の中で最も大きくなる。 |
茎 | 下部が横に長くねて先が立つ。
節ごとに根を出す。 |
葉 | 葉身の長さは一番長く、 一番幅の広いところは基部近くにあり、 色は白っぽい緑色。質は柔らかい。 葉鞘に長い毛がある。 |
花穂 | 5~12個で中軸が伸び2または3段になってつく。 穂軸のヘリはざらつく。 |
小穂 | 披針形で、淡緑色ときに褐色。 第1苞穎はほぼ三角形。 護穎の両縁に特に長い毛がある。 |
その他 | 日光の良く当る場所で多く見られる |
日本語名 | アキメヒシバ |
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英語名 | Digitaria violascens Link |
幼苗 | 葉がメヒシバに比べて細長い。 |
草丈 | 3種の中で中くらい。 |
茎 | 根際で分けつして広がり、先で直立してくる。
普通節からは根を出さない。 |
葉 | 葉身の長さは中くらいで、披針形で無毛。
先が尖り質は固い。
葉鞘は無毛。 |
花穂 | 3~7個で1または2段につく。
穂軸のヘリは少しざらつく。 |
小穂 | 卵状楕円形でやや先が尖り、一番小さい。
全体に短毛があり、通常は赤紫色を帯びる。 |
その他 | 秋に穂が出る。 |
日本語名 | コメヒシバ |
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英語名 | Digitaria timorensis Balansa |
幼苗 | メヒシバの小形。 |
草丈 | 3種の中で最も小形。 |
茎 | メヒシバより繊細。
下部は横にはい節から根を出す。 |
葉 | 葉身の長さは一番短く小形。 一番幅の広いところはほぼ中央部付近にあって 基部に向かい細まる。
質は薄く柔らかい。
鞘口付近に毛がある。 |
花穂 | 2~3個で1カ所から出る。
穂軸のヘリは平滑でざらつかない。 |
小穂 | 護穎は最も大きく披針形で5脈あり、緑色。
第1苞穎は微小または消失。
両縁に毛がある。 |
その他 | 日光の弱い場所で多く見られる。 |
<発生生態と防除>
当研究所ではメヒシバが以前は多かったが、最近ではアキメヒシバが多くなっている。
下のグラフは、昨年4月5日に一昨年採取したメヒシバ、アキメヒシバ、コメヒシバの種子を、砂土を充填した素焼き鉢に100粒ずつ播種し、底面給水にて発生調査したものである。播種時期が少し遅かったかとも思われるが、発生状況の比較の参考としてのせる。
メヒシバがアキメヒシバよりやや早く発生し、コメヒシバの発生はかなりばらつく。アキメヒシバと同じ頃エノコログサも発芽し、幼苗期は区別しにくい。エノコログサの方が質が硬く、しばらくすると立ち上がってくるので分かる。
メヒシバ類の防除には、基本的に発生前処理剤で発生させないことが重要である。コウライシバ、ノシバ内で発生した場合には茎葉処理剤を、なるべく生育初期に処理する。アシュラム(アージラン)液剤を使用する場合に、ベースの芝にティフトンが混入していると変色し、目立つことになるので使用は控える。
ベントグリーン内でメヒシバ、アキメヒシバが発生すると有効な茎葉処理剤はない。そのため発生してしまえば手取り除草しか方法はなくなる。毎年ベントグリーン内にメヒシバ、アキメヒシバの発生が多いところでは発生前土壌処理剤の処理が必要で、特にアキメヒシバの発生が多いところでは少なくとも2回処理が必要である。
<参考文献>
長田武正著:原色日本帰化植物図鑑(1976,保育社)
清水矩宏・森田弘彦・廣田伸七編著:日本帰化雑草植物写真図鑑(2001,全国農業教育協会)
廣田伸七編著:ミニ雑草図鑑(1997,株式会社理研グリーン)
牧野富太郎著:牧野新日本植物図鑑(1961,北隆館)
浅野貞夫・廣田伸七編著:図と写真で見る似た草80種の見分け方(2002,全国農村教育協会)
大井次三郎著:標準原色図鑑全集9植物Ⅰ,Ⅱ(1967,保育社)など
大井次三郎著:日本植物誌 顕花篇(1978,至文堂)
林弥栄総監修/畔上能力・菱山忠三郎・西田尚道監修:野草見分け方のポイント図鑑(2003,講談社)
長田武正著:野草図鑑③すすきの巻き,④たんぽぽの巻(1984,保育社)
浅野貞夫著:浅野貞夫 日本植物生態図鑑(2005,全国農村教育協会)
清水建美編:日本の帰化植物(2003,平凡社)