病 名

ピシウム性病害(1)
(寒地型芝草)

病原体
(学名)

Pythium spp.

英 語 名

Pythium diseases

<ピシウム性病害の一般的特徴>

症状(診断のポイント):

 淡褐色〜褐色(盛夏には赤みを帯びる)で、不整形(盛夏には円形)のパッチを形成。

発生条件:

 排水不良で過湿(極端な場合には冠水)条件下で発生。

発生消長と防除適期:

 発生前(耕種適防除)、発生初期(薬剤防除が基本)。

防除:

 発生前;あらかじめ透水性や表面排水を良くしておき、冠水しないようにも気をつけておく。

 発生初期;治療効果が高いものを選んで殺菌剤散布。

<ピシウム病菌形状>(写真1〜4,8〜17,20〜22)

写真1:菌そうの形状

(左:CMA培地上、右:PDA培地上)

写真2:若齢の菌糸

<冬の雪腐病>(写真5〜7)

症状(診断のポイント):

 融雪後にターフが不整形に淡褐色または褐色化し、シバは軟腐。小型のパッチがグリーン上に散在することもある。

発生条件:

 一般に、水分を多く含む雪が積る地域で水分不良個所に発生するが、非積雪地域でも排水不良個所で発生しやすい。

発生消長と防除適期:

防除:

 予防作業

  • 燐酸肥料を秋に与え耐寒性を高めておく。
  • 排水をよくしておく。
  • 根雪前(非積雪地帯では晩秋)に選択的殺菌剤を局所的に予防散布(固着剤を混用)。
  • 融雪期に融雪剤を散布。

 治療対策
  • 殺菌剤のスポット散布

写真3:菌糸の先端部

(若齢の菌糸)

写真4:老齢の菌糸

(隔壁を持つこともある)


写真5:褐色雪腐病−融雪後にターフが不整形に淡褐色または褐色化

写真6:褐色雪腐病−被害部表面(軟腐)

写真7:褐色雪腐病−罹病株

写真8:膨状の遊走子のう

写真9:糸状の遊走子のう(長い矢印)と球のう(遊走子が分化中、短い矢印)

写真10:根に集まった遊走子が発芽している

写真11:球形のハイファルスウェリングの発芽管発芽

写真12:不整形のハイファルスウェリング(付着器とも言う)


写真13:蔵卵器に複数の蔵精器が付着(受精)

<春と秋のピシウム病>(写真18〜19)

症状(診断のポイント):

 通常、大きさが様々な淡褐色〜茶褐色で不整形のパッチを形成。

発生条件:

 多肥、過潅水、多湿下で滞水に沿って帯状に発生。播種1年以内の若いターフで発生しやすく、病勢も激しい。特に、8月下旬〜9月上旬に播種(例、ティに寒地型芝草をオーバーシード)すると、発芽直後に大きな被害を受けることがある。

発生消長と防除適期:

防除:

 予防作業−6月下旬〜9月上旬の高温期には播種しない。晩秋に播種すると、冬に発病することがある。風通し、床土の透水性、表面排水などをよくする。pHの高い目砂は使わない。床土があるアルカリ性に片寄らないよう施肥を工夫。マット化させない。

 治療対策−播種1、2年目の若いターフには、発生初期に殺菌剤散布し、種子を追播するか張り替える。

写真14:蔵卵器(長い矢印)、卵胞子(短い矢印)と蔵精器(右下)


写真15:宿主内での卵胞子形成

写真16:根部に形成された卵胞子


写真17:葉に侵入した菌糸(幅約5μm)(道管内へ入っていない)

写真18:春と秋に発生したピシウム病(ベントグリーン)[上井政文氏提供]


写真20:葉鞘部に侵入した菌糸が細胞を貫通して伸展し、不整形の胞子のう様構造物(中央・下)を形成

写真19:熱帯夜(初秋)のティに発生したピシウム(オーバーシードされたライグラス)(故谷 利一博士提供)

写真21:根部に形成された不整形胞子のう様構造物

写真22:胞子のうが発芽管による発芽をし、体外へ脱出しているところ(中央・上)

<盛夏のピシウム病と赤焼病>(写真23〜32)

症状(診断のポイント)

 ピシウム病(写真23)

 円形のパッチで、赤焼病以上に激発することがある。最初は淡緑色(赤焼病のように赤褐色にならない)のパッチであるが、その後ブラウンパッチ様の症状を呈する。しかし、本病は縁に数cmの黒みがかって鮮明な濃褐色帯を形成し、早朝や多湿下で白色の菌糸が繁茂。パッチ内のシバは数日のうちに枯死。枯死葉には大量の卵胞子を形成。

 典型的な赤焼病(写真24)

 盛夏の多湿下で、最初は直径2、3cmの小型のパッチが出現、その後急速に拡大。多数のパッチが同時に発生すると、融合して大型不整形となる。パッチの縁に灰紫色帯を形成し、スモーキーリング状になる。パッチ状には朝露が降りにくく、葉色は灰紫色で、その上に白色くもの巣状の菌糸が形成される。赤みがかったパッチは日焼け症状に酷似するが、日焼けの場合には灰紫色帯がない。

写真23:盛夏に発生したピシウム病(ベントグリーン)
〔上井政文氏提供〕

写真24:赤焼病(ベントグリーン) 〔愛知総農試提供〕

写真25:ごく発生初期の黄色円形のパッチ(直径2〜3cm)

進行が遅い慢性の赤焼病

晴天が続く中で時々かなりの量の降雨が見られるという異常な気候下では、本病は突然激発するのではなく、下述のように、本病の発生に種々のパターンが見られる。その上、病気の進行が遅いためか、本病の初期症状から中期の病徴、さらに進んで枯込み症状まで、1つのグリーンで同時に観察されるのが特徴である。このような異常気候下に問題になる「本病」と「炭疽病」の違いは、炭疽病は終始不整形で赤味を帯びるが、本病は初めは直径数cmの黄斑、これが融合して褐色になり、さらに直径が10cm以上の円形の赤褐色のパッチを形成する。本病によるパッチには、炭疽病に比べて鮮明で真ん中に緑色の健全なシバが残るという特徴がある。


写真26:写真20より進行した黄褐色円形〜不整形のパッチ(融合し始めたものもある)

写真27:グリーンカラー近くで表面水が停滞する個所で形成されたやや黒味を帯びた黄褐色のパッチ

写真28:盛んに融合する発生中期の黄褐色のパッチ

写真29:写真28より進行した赤味を帯びたパッチ

写真30:モアで広がったパッチ

写真31:写真28がさらに進行した発生中期〜後期のパッチ

写真32:写真31がさらに進行した発生後期のパッチ
発 生 条 件

ピシウム病

日中35℃以上の気温が続いているときに豪雨があり、ターフ面が数時間、冠水状態になった個所に見られることがある。その後、刈り込みなどによって病原菌は広がり、被害を大きくする。パッチの跡には藻類の繁殖がよく見られる。

典型的な赤焼病

風通しや排水不良。多肥、軟弱徒長。23〜25℃以上の熱帯夜が続き、まとまった降雨があると発生。7〜8月の前線の停滞、雷雨あるいは台風後などの落葉、高温、降雨時には特に注意。

進行が遅い慢性の赤焼病

 晴天が続き、何日か後に1日かなりの量の降雨が見られ、翌日はまた晴天に戻るという異常な気候の夏期には一般に赤焼病は出にくいと思われがちである。しかし、このような異常気候下の梅雨あけ宣言の直前から、以下のような進行が遅い慢性の本病の発生を2004年に見た。
  @炭疽病に引き続いて発生
  A炭疽病と併発
  B赤焼病が単独で発生

 なお、進行が遅い本病は2004年には関東や関西の複数のゴルフ場で発生して被害を与えているようである。

発生消長と防除適期

防  除

 ピシウム病

予防作業−台風、豪雨、雷雨後に冠水または水が停滞しないようにする。

  治療対策−殺菌剤散布。

 赤焼病

  予防作業−床土の透水性を良くする。アルカリ土壌を矯正して発病しにくい土壌を作る。扇風機などで風通しを良くする。ターフに停滞水を作らない。モアで病原菌を広げないよう適宜洗浄する。

  治療対策−耐性菌の出現に気をつけながら、殺菌剤のローテーション散布。

  進行が遅い慢性の赤焼病

 発生初期に正確な診断を行わないと、いかに対症療法をしても本病は治らない

引用文献

第一研究室:ターフニュース No. 90 (2004.Jan).病害情報ネットワーク―ピシウム性病害(寒地型芝草)その1 (21-24ページ)
(財)関西グリーン研究所:GREEN LETTER(注意報)<赤焼病に注意!>(2004.7.16発行)
第一研究室:ターフニュース No. 93 (2005.Jan).病害情報ネットワーク―赤焼病(17-20ページ).